相談会に、3倍の人が来た。需要が増えたのではなく、もういた人が見つかっただけ
月2回というのは、従業員6万人の会社の話です。300人の会社が真似すべきなのは回数ではありません。 それに、3倍に増えたのは新しく困る人が増えたからではなく、もともと社内にいた人が見つかっただけです。 介護の現場に20年いた人間として、この事例のどこが効いていたのかを分解します。
コマツがやったこと
コマツ(株式会社小松製作所・連結61,564名)は2018年から、社外の介護専門家による個別相談会を月2回開いています。 設計思想は「自分で介護を抱え込む」のではなく、介護サービスの使い方や環境の整え方を一緒に考えること。 結果、利用者は開始当初の3倍になり、ダブルケアで離職しかけた社員が思いとどまった例もあります[1]。 日本経済新聞は2023年に「毎月満席が続く」と報じました[2]。
ここで見落とされがちなのですが、コマツには相談会を作る前から制度がありました。 介護休業は最大3年間、介護休暇は有給。法定を大きく上回る規定です。 それでも足りなかったから、相談会を作った。そして人が来た。
「制度があること」と「制度が使われること」は、別の問題です。 介護離職は、制度が無いから起きるのではなく、制度が使われないまま起きます。
御社の就業規則にも、介護休業の規定はあるはずです。では直近1年で、何人が使いましたか。 ゼロなら、それは困っている社員がいない証拠ではありません。いるけれど、言っていないだけです。
なぜ、会社に言えないのか
介護は、育児と違ってお腹が大きくなりません。報告する義務もない。だから黙っていれば見えない—— では、なぜ黙るのか。理由は2つあり、どちらも責められないものです。
1つは、社員の側の事情です。 親はいつまでも自分の親であって、倒れるものではない。姿かたちが変わり、体力が落ちていくのを見ていても、 その現実を受け切れない。だから、仕事に影響させないよう隠す。 ——これは会社に隠しているというより、自分自身がまだ受け止めきれていない、ということでもあります。
もう1つは、会社の側の事情です。 打ち明けたとして、受け入れ体制はあるのか。理解してもらえるのか。 そこが見えないと、人は言い出せません。
だから、社員に「早く言え」と求めるだけでは動きません。 社員と会社の、両方から歩み寄る必要があります。
2025年4月から、企業には雇用環境の整備が求められています(研修/相談窓口/事例の収集・提供/方針の周知のうち1つ以上)。 それを受けて「窓口を人事部に設置しました」と周知する会社は多いはずです。 ただ、ここまで見てきた通り、社員はなかなか自分からは言い出せません。 申告を待つだけの窓口は、動き出しが遅れます。だから、会社の側から声をかける——次の順番は、そこです。
で、300人の会社はどうするのか
効いていたのは頻度ではありません。もういる人を見つけ、会社から声をかけたことです。 それなら、月2回は真似しなくていい。同じことを、0円でやっている会社があります。
| やりたいこと | 大企業の打ち手 | 300人の会社の置き換え | 費用 |
|---|---|---|---|
| 隠れている人を 見つける |
大規模な実態調査 | 年1回のアンケート(ペンシル・約140名[4]/白川プロ[3]) | 0円 |
| 声をかける窓口に 顔をつける |
社外の専門家による相談会 月2回(コマツ) | 総務・社会保険の担当者を「介護相談員」に任命(白川プロ)。人を雇わず、名前を付けただけ | 0円 |
| 使ってよいと 伝える |
介護休業 最大3年間などの手厚い規定 | 社長が一言、全社に宣言する(白川プロ)。規定を厚くするより先に、前例をつくる | 0円 |
| 知識を配る | 外部講師のセミナーを定期開催 | 介護を経験した自社の社員に話してもらう(ペンシル) | 0円 |
白川プロは、社会保険の担当者に「介護相談員」という名前を付けただけです。それでも効きます。 「人事部にご相談ください」は誰にも刺さりませんが、「介護のことは総務の○○さんが担当です」には顔がある。 社員は部署には相談できませんが、人には相談できます。
そして社長の一言。取締役はこう述べています——「会社が推進するのなら制度を利用してもいいのかな」と社内の空気が変わった、と[3]。 前例が無い制度は、無いのと同じです。最初の1人になる勇気を社員に求めてはいけません。 それを引き受けられるのは、トップの一言だけです。
本人も「まだ言うほどじゃない」と思っている。 だから、こちらから聞かない限り、退職届が出るまで見えません。
白川プロがアンケートを取ったら、平均年齢34〜35歳の若い会社なのに、 「介護中」または「5年以内に可能性あり」が6割でした[3]。 困っている人は、もう社内にいます。本人が「じきに落ち着く」と思っているうちに、 会社の側から声をかけられるかどうか——そこが分かれ目になります。
今日持ち帰れること
- 介護休業の利用実績がゼロなら、困っている人がいない証拠ではなく、言えていない証拠
- 3倍になったのは需要が増えたからではなく、もういた人が見つかっただけ
- 社員が言い出せない理由は2つ。本人が現実を受け切れないことと、会社の受け入れ体制が見えないこと。両方から歩み寄る
- だから申告を待たず、会社から声をかける。0円でできることが4つ——年1回のアンケート/相談員の任命/社長の一言/社内の経験者に話してもらう
その社員の場合、どうなるのか
ここまでは会社全体の話です。明日困るのは「目の前のこの社員に何を渡すか」のはず。 聞いた話を入れると、その社員の見通しが1枚にまとまります。印刷して、本人に手渡してください。
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