介護離職防止の流れ(全体像)

社員から「親が倒れました」と言われた日から、通常勤務に戻るまで。人事が何を、いつ、どの順番でやるのか。

親が倒れてから、介護サービスが回り始めるまで、だいたい1〜2か月かかります。 ただ、この期間は状況によってかなり変わります。

分かれ目は、準備の時間が取れたかどうかです。

入院した場合は、その間に準備ができます。地域包括支援センターに相談し、要介護認定を申請して、退院までにサービスを組んでおける。 逆に、すぐ退院になった場合は準備が間に合わず、在宅介護の負担が一気に来ます。

このページは、その準備の時間をどこで作れるのかを、順番に並べたものです。

段階0
平時
相談が来る前。
こちらから聞かない限り見えない
段階1
言われた日
3つだけ聞く。
制度の説明はまだしない
段階2
最初の2週間
公的な仕組みに乗せる。
会社が抱え込まない
段階3
1〜3か月目
ケアマネジャーと
体制をつくる
段階4
通常運転へ
続けられる形に
定着させる

段階0:平時(相談が来る前)

介護には予定日も報告義務もありません。本人も「まだ言うほどじゃない」と思っています。 こちらから聞かない限り、見えません。

ここを先にやっておくと、相談が来たときに調べる時間が要りません。その分を、準備に回せます。

平時にやること(すべて0円でできます)
やること中身
年1回のアンケート 「介護中ですか」「5年以内に介護が始まる可能性はありますか」——設問は数問でいい。これをやると、経営層の想定よりはるかに多い数字が出ます。
相談先に「名前」を付ける 「人事部にご相談ください」は誰にも刺さりません。「介護のことは総務の○○さんです」には顔があります。社員は部署には相談できませんが、人には相談できます。
トップが一言、言う 前例が無い制度は、無いのと同じです。最初の1人になる勇気を社員に求めてはいけません。それを引き受けられるのはトップの一言だけです。
40歳になったら情報を渡す まだ何も起きていないうちに、パンフレットを1枚渡しておく。困ってから読む人はいません。困る前に「そういえば何かもらったな」を作ります。

具体的にどの会社がどうやったかは、事例の解説で1本ずつ書いています。

段階1:「親が倒れました」と言われた日(初日)

この5分の対応で、その社員が半年後に会社にいるかどうかが、かなりの部分決まります。 制度の説明は、まだしないでください。

人事担当者が社員の話を聴いている様子

最初に話を聞く場面。ここで制度の説明から入らないことが、次の相談につながります。

まず、この3つだけ聞く

聞くことなぜ
「お父さん(お母さん)は、いまどこにいますか」 病院か・自宅か・施設か。居場所が、この先の分かれ道を全部決めます。まだ入院中なら時間はあります。退院日が決まっているなら、急ぎます。
「地域包括支援センターには、もう相談しましたか」 介護の入口は、必ずここです。公的な窓口で、無料で、親の住所の地域が担当します。まだなら、これが最優先の一歩。会社が何かを用意する前に、まずここへ行ってもらいます。
「いま、ひとりで抱えていませんか」 兄弟・配偶者と話せているか。介護で先に潰れるのは、体力ではなく「ひとりで全部背負った人」です。そして、その人ほど会社には何も言いません。
「大変だね」の後に、もう一言

社員から「親が倒れました」と言われたとき、多くの場合「そうなんだ、大変だね」で会話が終わります。 ただ、社員の側からすると、そこで話も終わってしまいます。

そこに、もう一言だけ足してください。

「会社としてサポートできることはします」

この時点では、何をサポートできるか決まっていなくて構いません。 社員が知りたいのは、制度の名前ではなく、この話を会社にしてよかったのかどうかです。 ここで一言あると、次の相談が来ます。

段階2:最初の2週間

この時期にやることは、はっきりしています。公的な仕組みに乗せることです。会社が抱え込む時期ではありません。

まず見るのは、親御さんがいま入院しているかどうかです。同じ「最初の2週間」でも、急ぎ方が変わります。

親御さんは、いま入院していますか?
入院している
退院日までは時間があります。この間に地域包括支援センターへ相談し、要介護認定を申請しておく。 退院までに準備が済んでいれば、退院後の負担がかなり減ります。
すぐ退院・自宅にいる
準備の時間がありません在宅介護の負担が一気に来ます。 認定の結果を待たずに動きます。
↓ どちらの場合も、行き先は同じです
地域包括支援センター
  • 地域包括支援センターへ行ってもらう。親の住所の地域が担当です。社員の勤務地ではありません。ここを間違えると たらい回しになります
  • 要介護認定の申請。申請から結果が出るまでは、法律上は原則30日以内と決められています。ただし実際には30日を超えることが多く、1か月半ほど見ておくと安全です。結果を待ってから動くのでは遅いので、申請と並行して準備を進めます(申請中でも暫定でサービスを使える場合があります)
  • 介護休業を、この時期に使うかどうかを決める。93日を「体制づくり」に使うなら、まとまった時間が要るのはこの時期です。 介護休業は、自分で介護をするための休みではなく、介護の体制をつくるための休みです。日数だけを伝えると、介護そのものに使い切ってしまい、休みも体制も残らないことがあります。伝えるときは、この使い道までセットでお願いします
  • 会社側:直属の上司に、どこまで共有するかを本人と決める。本人の同意なく病名や家族の事情を広げないでください。要配慮個人情報にあたります

段階3:1〜3か月目(体制をつくる)

この時期のことは、地域包括支援センターとケアマネジャーが引き受けます。人事が中身を判断する必要はありません。 会社がやるのは、その相談に行く時間を作ることです。

  • ケアマネジャーを決める。これも、まず地域包括支援センターです。包括に相談すれば、そこからケアマネジャーにつながります。社員が自分で探す必要はありません
  • 在宅か、施設か。これは親御さんの状態によって決まります。家族だけで決める話ではなく、ケアマネジャーと相談して決めるのが一般的です
  • サービスを組む。デイサービス、訪問介護、ショートステイ、福祉用具。「週に何回、誰が、どこにいるか」を組み立てます
  • 会社側:短時間勤務・時差出勤・テレワークなど、働き方の調整。ここで初めて制度の出番です。介護休暇(時間単位)は、通院の付き添いに効きます

段階4:通常運転に戻す

サービスが回り始めると、ご家族の様子が変わります。安心感が出てきて、生活のリズムが安定します。

介護をしながら、通常どおり働いている社員

サービスが回り始めると、生活のリズムが戻ります。ここまで来れば、働きながら続けられます。

何時に出て、何時に帰ってくるか。今日は誰が家にいるか。それが決まると、勤務の予定も立つようになります。 ここまで来れば、働きながら続けられます。

ただ、介護そのものが終わるわけではありません。だから「続けられる形」に着地させて、定着させていくことが大事です。

  • サービスが回り始めたら、働き方を通常に戻せるところは戻す。戻せない部分だけを、制度で埋めます
  • 状況は変わります(親が入院する、要介護度が上がる、施設に空きが出る)。一度決めて終わりにしない
  • 会社側:この社員のケースを、匿名で記録に残す。次の社員のときに、ゼロから始めずに済みます。 これは2025年4月からの義務にも使えます。義務は「研修」「相談窓口」「事例の収集・提供」「方針の周知」の4つから いずれか1つを選べばよいことになっていて、記録を残しておけば、そのうちの1つを満たせます(制度の概要を参照)

その社員の場合、この流れがどうなるのか

実際の流れは、親の居場所や在宅か施設かで全部変わります。 聞いた話を入れると、その社員の場合の見通しが1枚にまとまります。印刷して、本人に手渡してください。

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本ページの内容は、記事作成時点の公開情報と、筆者の介護現場での経験に基づく整理です。 制度は改正されることがあり、個別のケースには例外もあります。 実際の運用にあたっては、必ず厚生労働省・お近くの労働局・顧問社会保険労務士にご確認ください。